王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「レイモンド君。戻りたまえ。貴族相手に、君ができることはないだろう?」
イートン伯爵の問いかけに、レイモンドは唇を噛みしめる。
「……前もそうでした」
沈痛な面持ちで語り始めたレイモンドの拳は、小さく震えている。
「オードリーが結婚するとき、貴族の男相手に、俺が適うわけがない。絶対に俺より幸せにしてくれるはずだ。そう思って、オードリーを送り出したんです。……でも実際、オードリーは幸せだったんでしょうか。夫を早くに亡くし、こんな風に拘束されて」
「レイモンド君」
「今度こそ、俺は手を離したくないんです。相手が貴族でも、もうあきらめたくない。だって俺は、誰より彼女を想っている自信がある」
「レイモンドさん、だけど……」
レイモンドは、ロザリーに向かって頭を下げた。
「頼む。どうかクリスを守ってやってくれ。俺ひとりなら、なんとかしてアンスバッハ邸に潜りこむこともできると思うんだ」
「ですが……」
ロザリーはクリスを抱きしめる。オードリーがいなくてただでさえ不安なクリスが心配でならなかった。
「……分かった。いいだろう。クリス嬢は私が責任もって面倒見てやろう」
「伯爵?」
ロザリーは目を剥いた。イートン伯爵は感極まったように声を震わせている。
「愛に生きるなんて……素晴らしいなぁ。貴族同士にはないこの情熱。……ふふ」
「は、伯爵ぅ」
どうやらイートン伯爵は感激屋のようだ。
ロザリーだってレイモンドの気持ちは分かるし応援したい。
しゃがんでクリスと目線を合わせ、「クリスさんは待てますか?」と聞いてみる。