王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
クリスの瞳にジワリと涙が盛り上がる。それでも彼女は唇をキュッと結び、レイモンドのところに駆け寄った。

「レイ。ママを助けてくれる?」

「あたり前だろ? だけどそのために、クリスをひとりにしてしまう。ごめんな」

「ううん。だったらクリス頑張るから。絶対に迎えに来てね」

レイモンドはうっすら涙をうかべ、それを見られないようにクリスを抱き上げた。

「……もちろんだ」

「クリス、毎日お祈りするからね。レイに教えてもらったケーキも、毎日作るから。だから、帰ってきたら食べてね」

「ああ。きっと、……最高にうまいだろうな」

掠れた声に、ロザリーはつられて泣いてしまう。
レイモンドとクリスは血は繋がってなくても間違いなく親子だ。
信頼し合うその姿に、胸が打たれる。

イートン伯爵も馬車に隠れて号泣していた。

「とりあえず、下働きとして入り込もうと思っています。雑用でも何でも、とにかく屋敷にさえ入れれば情報が得られると思うんで」

「あの屋敷に君の顔を知る者はいないだろうから大丈夫だとは思うが。なにかあればすぐ戻ってくるんだ。こちらでもオードリー殿を解放する手立ては考えてみるから」

「ありがとうございます、イートン伯爵。ご恩をこんな形で返すことになって申し訳ありません」

「いやいや。君はまた戻ってくるのだろう? 恩はこれから返してもらうから問題ない」

レイモンドはクリスをロザリーに託すと、深々と頭を下げた。
そして、ひとり、貴族街を歩いていく。

ロザリーと伯爵とクリスは馬車に戻り、そのあたりをしばし巡回した。
泣き止まないクリスを抱きしめながら、ロザリーも決意を固める。
何の罪もない家族を引き離すなんてことが、許されていいはずがない。
アンスバッハ侯爵に必ず罪を認めてもらう、と。
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