ボードウォークの恋人たち
電話が終わった大江さんが私の方を向いた。
「二ノ宮さん、マロナーゼホテルって知ってる?ここから一駅のところにあるんだけど」

マロナーゼホテルといえば、昨秋にオープンした五つ星ホテル。
インテリアも部屋に常備されたアメニティも評判がよくて大人気ホテルだってことは泊まったことがない私でもよーく知ってる。

「そこの部屋を取ったから今夜はそこに泊まって」

部屋を取った?え、まさか。
平日とはいえ五つ星ホテル。
どうしよう、そんなにお金がないとは言いにくい。引越し代を含め今後の生活を考えたら無駄遣いは控えなくちゃいけないのに。
でも、せっかくのご厚意を無駄にするのも悪いし。

「部屋代なら心配いらないよ」

大江さんは私の戸惑いに気がついたらしい。

「僕個人が年間契約している部屋だから、宿泊費は無料。主に海外からのお客さんを泊めたり商談に使ったり、仕事で遅くなった時に泊まったりって使い方をしてる部屋だから気にしないで使って欲しい。今ホテルにも連絡しておいたから案内してもらって」

「そんな、申し訳ないです」

「いいから。このまま別れた方が心配だし。それとも新婚二日目の僕のマンションに泊まるかい?」

「いいえ、滅相もございません!!」

あわあわと慌てる私に
「是非そうして。私の精神衛生のためにも」とひとみさんが私の手をギュッとした。

「二ノ宮さんのおかげで結婚できたようなものだし、こんなことでお返しできるとは思わないけど。今夜は甘えてもらえないかしら」
ね、と綺麗なお姉さまにお願いされて断れるはずがなかった。実際困っていたし。

ーーーそれから少しだけ大江さん夫婦と話をしてタクシーでマロナーゼホテルに送ってもらった。案内された部屋に入るとホッとしてシャワーも浴びずにベッドに倒れ込むようにして夢もみないで眠った。
一日働いた後の大泣きは私から結構な体力と気力を奪っていたらしい・・・。
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