ボードウォークの恋人たち
一度お母さんに挨拶したいと言ってみたけれど、もちろん答えは「NO」だった。

彼女から肉親の情を感じたことがない以上自分と母親はもう赤の他人だとハルに言い切られてしまう。
彼の心の傷の深さがいかほどかと胸が抉られるように痛みを感じてしまった。

でも・・・私はハルと結婚するのに彼の実母に挨拶しないような人間になりたくない。

しばらく悩んだものの結局、私はひとりハルに内緒で彼のお母さんに会いに行くことにしたのだった。

ハルのお母さんとは街のカフェで二人きりで会った。
ハルはお父さんに似ていると思っていたけれど、鼻の形、顎のラインなどはお母さんに似ていた。

お母さんがハルにしたことは許せないけれど、この人がハルを生んでくれたからこそ今のハルがいるのだ。

ハルにプロポーズされ受けたこと、ハルとお父さんが和解したことを告げてもハルのお母さんは全くの無表情で口すら開こうとしなかった。

でもこうして会ってくれただけましだ。私も文句を言うつもりはないし、こうして会いにきたのも私の自己満足。
できれば祝福して欲しかったけれど、決して祝いの言葉が欲しかったわけではない。

ハルを生んでくれたこと、今日この場に来てくれたことのお礼を言い早々に席を立とうとすると
「二ノ宮さん」
とハルのお母さんがこの日初めて口を開いた。

「あなた、治臣が医者にならなかったら他の男と結婚したの?」

一瞬何を言われたのかわからなかった。
でも、お母さんの強い瞳にああそうかと思った。
この人も私とハルが結婚することで二ノ宮の家に息子のハルを奪われると思っているのだ。

私たちの結婚にそんな意味はないし、ハルがうちに婿入りするわけでもない。
私が舘野の籍に入るのだ。

どんな事情があったかは知らないけれど、子どものハルが見放されたと感じてしまうほど接触を絶ったのはこの人なのにそれでも自分が産んだ子供は自分の所有物だとでも思っているんだろうか。

「いいえ。私は昔から治臣さんのことが好きでした。治臣さんがどんな職業を選んでいても彼は彼ですから、彼が望んでくれたら私はついていくことを選びました。」

ここだけはしっかり言っておかなくてはいけない。
「私の結婚に関して二ノ宮の家は関係ありませんし、彼も二ノ宮グループの病院に拘りはないようですからこの先二ノ宮総合病院だけではなく二ノ宮のグループ自体を離れる可能性もあります。過疎地に二人で行くかもしれませんし、海外で研究を続けるという可能性もあります。未来のことは何も決まっていません。二ノ宮のグループを背負っていくのは私の兄であり、現在頑張っている現場の医師や事務方の皆さんであって、私やハルは地位を約束されているわけでもグループに縛られているわけでもありません」

「・・・そう」
それきりまたハルのお母さんは黙ってしまった。
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