"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
なんだか探られているような気がして、不快感が込み上げた。言い方がキツくなってしまう。
「ご夫婦から夕食に招待されて、ご馳走になっただけです」
「そ、そうよね。相沢さんの家ってご近所付き合いするんだって。……つい詮索するようなことを聞いてしまって、ごめんなさい」
本当に申し訳なさそうに言う平松に、俺はバツが悪くなって「こちらこそ、言い方がキツくなってすみませんでした」と頭を下げた。
「違う違う!町田さんは何も悪くないわよ!私だってジロジロ見られたり、探るようなこと言われたら不快だもの。大人のくせにそんな分別もついてなかったのはこちらよ」
確かに不快だった。
今思えば、初めて大洋に出会った時に、俺は茫然と立ち尽くしていただけだが、相手からすればジロジロと見られているという印象。
そりゃ、最初から嫌われるわけだ。
「いかにもキャリアウーマンって感じの女の人しか相沢さんと関わりがないとばかり思っていたから…。あ!違うのよ!?これもたまたま散歩中に……」
やってしまったと言わんばかりに、悩ましい顔をする平松に「分かってますよ」と言っておく。
それよりも、キャリアウーマンって誰だ。まさかあの天然な人のことを言っているんじゃないだろうな。
流石に違うだろうと思い、さっき気になったことを聞いてみる。
「さっき相沢さんはご近所付き合いしない、みたいなことを言ってましたけど」
彼女は頷いた。
「二年前、だったかしら。夫婦でこの近辺の家に挨拶に来たのよ。でも、それっきり。元々、住宅街とこの平家ってちょっと離れてるのもあるけどね。奥さんは挨拶してくれたりはするけど……」
平松はどう表現すれば良いのかわからないのか、うーんと頭を傾げ、ポツポツと話しだした。
「綺麗すぎて私が気後しちゃうっていうのもあるのよ?でも、奥さんの方も近所の方と関わるのを遠慮している、というか避けてるような気がするのよね」