"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
ふと、脳裏に去年の末に夜ご飯を誘われた日のことが過ぎる。
よく晴れていたけど、冬の寒さが身に染みる中、シーツが音を立てて波打つ。同時に茶色の長い髪も風に揺れて、吐いた白い息が空に消えていく。
遠目で分からなかったが、彼女の姿はどこか哀愁が漂っていて、今にも消えてしまいそうだったことを。
……そういえば、距離感はおかしいけど、相沢さんって人のことを触ったりはしないな。
旦那さんいるし、そりゃそうか。
「今思い浮かべた相沢さんって人に似ている人を探せばいいんじゃない?」
「それは……無理だろ」
「既婚者って話じゃないからね〜」
「分かってるっての」
既婚者だって時点で無理だが、そもそも、琴音に似た人なんていないだろう。
千葉崎が言っているのはそういうことではないと分かっている。
例えば明るい人を探せとか素直な人を探せとか、そういうことが言いたいんだ。
「今回は酒井はどうだって言わないんだな」
明るいといえば明るい。素直ではないけれど真っ直ぐではある。今回もなんだかんだ酒井を勧めてくると思いきや、そうではなかった。
なんだか真面目な話になってしまってそのオチを探すように言った言葉だったのだが。
千葉崎が目を見開き、一瞬息を飲んだ。