"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


「大丈夫じゃないってことがわかった。部屋ってどこのこと?」

「そこのカラオケに決まってんじゃん」

何を言ってるんだ。
さっき一緒にみんなと店に入っていっただろ。

……そうだ。店に入ってた。

じゃあ、目の前にいるのは誰なのか。

パッと顔を上げる。


「酔ってんの?」

俺は目の前にいるのが誰なのか一瞬わからなかった。

話し方や声がさっき心配してくれた子ではなく、よく一緒につるんでいるうちの一人のものに酷似している。

それなのに見た目が一致しない。

今日知り合った子でもないのに、知らない人に見えるのはこれで二度目だった。


「酒井、だよな?」

「そうだよ」

「……なんか、気合入ってんな」


最近伸ばしているのか、少し長くなった茶色の髪が巻かれ、耳にかけた髪からはイヤリングが見えて。

ワンピースもショートブーツも普段は着ないし、履かないものなのに。

化粧だって最低限しかいつもはしていない彼女がしっかりオシャレをしている。

それなのに、文化祭の日のように側に友達が控えているわけでもなく、一人だ。


「なんでここにいんの?」

「悠介に会いにきた」

「……は?」

「カラオケの部屋どこって?」


スマホ画面を見れば305と通知が来ていた。


「305」

「分かった」と言うなり酒井は自分のスマホを触る。

何が分かったなのか。
会いに来たとはどう言うことなのか。

酔った頭では上手く機能せず、理解力が追いつかない。


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