"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


スマホを鞄に入れ、酒井が支えるように俺の背に手を回して歩き出す。

「ちょっ、俺今からカラオケ行くんだけど」

「それは代わりに千葉崎が行ってくれるから」

「千葉崎?あいつ彼女いるのにいいのかよ。……っていうか、なんで千葉崎もいるんだよ?」

「あいつは私が告白できるように協力してくれたの」

告白。

その二文字に俺は目を見開き、隣を見る。
酒井は真っ直ぐ前を見ていて表情はわからなかったが、耳は真っ赤だった。


酒井、好きな人いたんだとか。
千葉崎とそんな話をする仲だったのかとか。
だったらなんで俺だけ知らなかったんだろうとか。

頭の中をぐるぐるといろんなことが駆け巡って、さっきの言葉を思い出したのは電車に乗った時だった。

人が殆どいない車内に二人横に並んで座る。

女子にしては高い身長に、身体能力も高い酒井だが、履き慣れないブーツで酔った大の男を運ぶのは疲れたのだろう。

真っ赤な顔を何度も手で仰いでいる。

俺も時間が経つに連れて酔いが回ってきたのか、体が熱い。


もし酔ってなければ正常に頭が働いて、きっとこんな質問はしなかっただろう。

だけど、この時の俺はそれはもう酔っていて、気になったから聞いたという単純思考しかできなかった。


「俺に会いに来たってどういうこと?」


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