"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
酒井は答えないまま、電車は目的地に着いてしまった。
「よく分かんねーけど、気をつけて帰れよ」
俺はそう言い残し、ふらつく足でなんとか電車を降りて改札へ向かった。
コツコツ。
靴の音に振り返れば酒井がいた。
「心配してくれんのはありがたいけど、俺、今日こんなだし。家帰るのが精一杯だ。もう時間も時間だし、次の電車乗って帰れよ」
もし家まで酒井がついてきてくれたとしても、そのあと酒井は自分の家に帰らないといけない。
あの長い夜道を一人で帰らせるわけには行かないので、俺としてはここで帰ってもらいたい。
「私、足速いし。襲われるような可愛い子じゃないから大丈夫」
そう言って酒井は俺を追い越し、先に改札を出た。
俺は頭が痛くなって、無性にイライラしながら改札を出た。
「もっと危機感持てよ。その靴じゃ変なやつに追いかけられたって逃げらんないだろ。おまけに今日のお前は……」
ふらっとして、何とか足を踏ん張り、耐える。
ため息をつく音が聞こえた。
「人の心配より自分の心配したら?ふらふらじゃん。どんだけ飲んだか知らないけど、あんたみたいな酔っぱらいを一人にできるわけないでしょ」
またさっきと同じように肩に腕を回され、支えられる。何というか今日の俺は本当に情けない。
……女子に支えられる日が来ようとは。