"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


家に着き、水を飲む。

大分マシになったものの、自宅という安心感からか今度は眠気が襲ってきた。

時間は十二時手前だった。

「酒井、あの坂地味に長いし暗いから今日は泊まってけば?奥の和室に布団あるし、風呂とか暖房とかは好きに使ってくれていいから」

パジャマ代わりになるような服はないかクローゼットを漁るが、体格に差がありすぎてどれもぶかぶかになりそうだ。

無いよりはマシだろうと、取り敢えずパーカーとジャージを手渡す。

眠気のピークが来ていて、なけなしの気力でお礼を言ってベッドに入ろうとすれば、服の背中を掴まれた。


「さっき、なんで会いに来たかって聞いたでしょ?」

「あぁー、うん。明日でいいや」

結構気になっていたはずの事だが、眠気の前ではそれも霞んでしまっていた。


「今聞いて」

強く言う彼女に「何?」と振り返る。

今日の酒井がどう過ごしていたかは知らないが、酔っていないことは間違い無い。

「私今日、告白しに来たの」

そう言う彼女の顔は真っ赤で、目が潤んでいた。
まるで今から告白する女の子のように。

俺は今日随分と酒を飲み、意識はあるが大分酔っている。だからおかしな考えにたどり着いてしまう。

絶対に無いと思いながらなぜか緊張していて、心臓の鼓動が早くなった。

眠気が少しずつ薄れていき、蚊の鳴くような声が聞こえた瞬間、そんなものは何処かへ行った。

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