"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「悠介、好き、です」
ギュッと、背中の服を握り締められ、その手が震えているのが伝わった。
目の前にいるのは酒井絵里。
高校の同級生で、サークルが同じで、遊びにもよく行くし、時には軽い言い合いだってする。
普段はスカートなんて履かないし、薄化粧だし、言葉遣いだって悪い時は悪い。
女の子らしいところなんて料理くらいしか思いつかない女友達。
恋愛系の話をお互いにほとんどしたことがなかったし、酒井もそんなそぶりも見せなかったから興味がないのだと思っていたけれど、話せるわけがない。
千葉崎が知っていて、俺が知らないのは当然で、あれだけ千葉崎が酒井を勧めてきたのもこういうことだ。
「高校からずっと好きだったけど、言えなかった。私が意気地なしで勇気がなかったから。……それに、天邪鬼らしいし、可愛くないからさ」
緊張からか潤んだ目から涙がポロリと溢れ、一度溢れた涙は後を追うように溢れていく。
その姿に息を飲んだ。
「隣の相沢さんのことが好きなんでしょ?」
「千葉崎に聞いたのか?」
首を横に振り、文化祭の時に話している姿で分かったという。あの日、友人誰一人気づかなかったのに酒井にはバレていたというのか。
そんなに分かりやすい態度を取ったつもりはなかったけれど、分かる人にはわかるのか、それとも俺が分かりやすいのか。
今回は酒井だったから良かったものの本人や大洋に露見してしまったらと思うと、やはり早く気持ちを抹消しなければならない。