"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「好きなんだと思う。だけど、相手は既婚者だから、こんな気持ちは間違ってて。だから忘れなきゃならないんだ」
「……だから急に合コンなんて。忘れるために彼女作ろうとしてたってこと?」
「そう、だな」
最初は誰でもよかった。
誰でもいいからこの気持ちを上書きして欲しかった。
早く彼女を作らなきゃと思って普段は誘われても行かない合コンに何度も参加した。
それなのに、元カノがどうだとか、長続きする子がいいとか。言い訳ばっか探して。
結局、誰とも付き合う気なんてなかったんじゃないか。
間違っているとわかっている。けれど、自分の心なのに自分でも制御できない。
惹かれている人がいる時点で、他に目を向けようとしたって無理な話だった。
「忘れられそうにないってことを思い知っただけだったけどな」
いくら友人とはいえ、俺を好きになってくれたとはいえ流石に引いたんじゃないだろうか。
好きになってはいけないような人を好きになったことも。誰かを利用しようとしたことも。
忘れようとして忘れられないことも。
本当は酒井に言うつもりはなかった。
男と女での価値観の違いもあるだろう。
軽蔑する度合いが全然違う。
酒井に軽蔑されたくはなかった。
「ごめん。好きな人がいるから付き合えない」