"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
もう軽蔑されようがされまいが、どっちにしても元のように接するのは難しいだろう。
できれば酒井と友人でいたいけれど、告白されて、振った後の関係で今までのような関係ではいられない。
それこそ長い時間を掛けて、互いに誰か他の人を好きになれる日が来たら、元の友人関係になれるかもしれない。
それが一体どれくらいかかるのか。
その途方もなさと、喪失感のような、いい知れない虚しさに息が詰まった。
だが、そんな俺の心中とは裏腹に酒井は心配そうに眉を寄せて言った。
「悠介は相沢さんの家庭を壊すつもりでいるってこと?」
それは最も俺が軽蔑している。そうはならないようにするためにも忘れようとしているくらいだ。
「壊すつもりなんてない!ただ、自分の気持ちがままならないだけで、そんなことはしない」
「なんだ。じゃあ間違ってないじゃん」
ホッとしたように小さく笑う酒井。
俺は眉を顰めた。
「悠介が間違ってるなら私だって間違ってる。ううん。忘れようって行動しただけ悠介は正しいじゃん。私は高校の時、彼女がいるあんたのことがずっと好きだったし、大学でもそう。ずっとずっと別れろって思ってたよ」
自分じゃ何もしないくせにね、と自嘲気味に言う酒井に俺は目を見開いた。
そもそも好意を寄せられていたことさえ知らなかったから、そんなことを思っていたことなんて知る由もないが。
「最近どうなの?ちゃんとデートしてる?」
なんて、かつてニヤニヤしながら聞いてきた彼女からは想像もつかなかった。
「忘れられるわけないじゃん。そんな簡単に忘れられるなら私だって今頃は悠介以外の人が好きだよ。誰でもいいなら誰かと付き合ってるよ」