"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
言われてハッとする。
俺は振って、彼女は振られた者で、泣きたいのは酒井だ。振ったやつの家に泊まれば思い切り泣くこともできないし、朝起きて顔を合わせるのだって辛い。
この手を離すべきだろう。
だけど、手を離す気にはなれない。
「お前と千葉崎と。三人で居るのがなんだかんだで居心地が良かった。……けど、もう元には戻れないんだよな?」
彼女の傷を抉るのを承知の上での質問だが、確認したかった。
ふざけたり、言い合ったり、特に意味もなく当たり前のように三人で一緒にいる時間はもう来ないのだと。
振り返った酒井の表情はとても苦しそうだった。眉間に力を加えながら、無理に笑っている。
俺がそうさせてしまった。
「戻れるわけないじゃん。友達のフリなんて私にはもう無理だし、悠介だってそうでしょ?」
「……そうだな」
ずっと友人だと思っていた女子から告白されて、これまで通りに接するのは難しい。どうしたって今日の日のことを思い出してしまう。
高校から好きだと言っていた。
最低でも三、四年は好きでいてくれているということだ。
その間、知らないうちに何度も傷ついていたのかもしれない。苦しんでいたかもしれない。
酒井はそれでもずっと友人でいてくれた。
酒井がずっと言わないでいてくれたから成り立っていた関係で、いつ壊れたっておかしくなかった。
来たるべき日が来てしまったというだけなのかもしれない。
だけど、これまで一緒に過ごしてきた時間を思い出したり、これから一緒にいるはずだった時間を思うと胸が締め付けられる。