"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
ニヤニヤした顔を近づけ、ヒソヒソと「ぶっちゃけ、付き合ってからどうなの?なんか変わった?」と聞いてきた。
「特に、何も」
変わっていないわけではない。殆ど変わっていないと言うのがしっくり来るかもしれない。
あれからバレンタインやホワイトデーに送りあったり、二人で出かけることも多くなって来た。
酒井は誰かと付き合うのは初めてらしいし、俺も久々の彼女。それもつい最近まで友人の一人としか思っていなかった酒井が彼女になったので、どう接すればいいかわからないままでいる。
気恥ずかしくて手を繋ぐのが精一杯。
まるで小学生、いや、幼稚園児のような付き合いだ。
キスすらしていないと知られたら流石にバカにされそうなので会話は濁すに限る。
「でもさ〜、最近酒井って可愛くなって来てるから好きになる男も出て来ちゃうんじゃない?うかうかしてたら横から掻っ攫われちゃうぞ〜?」
縁起でもないが、言い得て妙だ。
高校の時から好きでいてくれたとはいえ、いつ心変わりされたっておかしくないんだ。
今までの彼女達と同じような理由で別れたくはないし、酒井とそれっきりの関係になるのも嫌だ。
酒井を恋愛として好きだとはまだ思えていないのに、不思議とそれだけは絶対に嫌だった。