"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


「やっぱり最近、可愛くなってるよな」

「なってるなってる」


髪を伸ばし始めたこと。化粧をしっかりするようになったこと。服装が変わってきていること。

あと、表情。

顔を赤らめたり、恥ずかしそうに笑ったり、泣きそうな目で怒ってきたり。

見たことない姿にいちいち驚かされる。


「今はゆ〜君の前でだけ可愛い姿見せてるけど時間が経ったらそれが当たり前になって、それを見た男が酒井のことを好きになる奴も出てくるんじゃないかな〜、なんて。………でも、まだ相沢さんの方が惹かれてる?」

「………そう、だな」


年末以来、ちょくちょく夜ご飯に誘われるようになった。

そこにはもちろん夫婦揃っての日でなければ誘われないし、万が一誘われたとして行かないだろう。

前は二人のやりとりを見ているだけで、この気持ちに対する罪悪感を感じて自己嫌悪して辛くなることはあったけれど、そういうことはほとんど無くなった。

意識が琴音だけでなく、酒井にも分散されたせいか前のように意識することは無くなってきているかもしれない。


とはいえ、酒井に対して恋愛感情を抱いているか。
琴音を意識していないか。

そう問われるとどちらもNoと言わざるを得ない。


「原田とはどっか行かないのか?」

「今回はパス。行くなら夏休みかな〜」


じゃあ尚更、来たらいいのに。
変なところで遠慮しやがって。


「俺のことより、ゆ〜君。キスくらいはできるように頑張れ〜」


パソコンを打つ手が自然と止まる。

顔を上げればニコッと微笑まれた。
ニヤニヤされた方がまだマシだと思った。


どこでバレた?


俺は頭を抱えたくなるのをなんとか抑え、作業を続けた。

本当に千葉崎はなんでもお見通しで怖い。

恥ずかしすぎて何も返せなかったが、心の中では「余計なお世話だ」と返していた。


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