"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる

「他の季節なら色んな花を植えるのよ?けど、この時期。……夏に近づくと向日葵だけを植えているみたいだから今年もそうだと思うなぁ」

しゃがんで土から顔を出した芽にそっと触れる彼女は、小さな笑みを浮かべた。

俺はその表情に見覚えがあった。

二回目に会った時、体調が悪いのに無理して笑っていた時の顔だ。


「なんか、意外ですね。ギャップというか。どんな顔で育ててるのか想像できないです」

妙にザワザワとする心を落ち着けるように敢えて明るく振る舞った。

琴音はクスリと笑って頷いた。

「そうよね〜。昔は花なんてちっとも興味なかったのに。私が花を育ててたら「何が楽しいんだ」って言ってたような人が、私がここに来る前から花を育てるようになってたらしくて、今じゃ私より上手に育てるんだから」


眉間にシワを寄せて理解不能そうな顔をして言ってそうだ。それは容易に想像がつく。

そんな大洋に琴音が何度も嬉々として説明する姿も。


「とってもね、大事そうに育ててるよ」


目つきが悪く、あの鋭い瞳を持つあの人が大事そうに育てるに至った過程はどんなものだったんだろうか。

人生が百八十度変わるような出来事でもない限り、花を育てるなんてことをしそうにない人なのに。

それとも、本当にただ純粋に育てる楽しさを知ったのだろうか。

作物を育てる楽しさをついこの間知った身としてはそれはあり得ると思う。

琴音がいなければ一生そんな気持ちにならなかった。
育てようとすら思わなかったけど。

……もしかして、同じように誰かにそんな気持ちにさせられたのか。


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