"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「昨日行って、さっき帰ってきたの」
「一日でお二人それぞれの実家って大変だったんじゃないですか?」
いくら東京までそこまで時間がかからなくても、一日で大洋側、琴音側のそれぞれの実家に帰るのは中々骨が折れそうな行動だ。
もしも一日で両方の祖父母の家に行くと言われれば俺は断る。
「実家が同じだから全然大変じゃないよ〜。それに毎年のことだしね」
話しながらも手早く洗濯物を干す彼女は至って普段通りなのに何かが引っ掛かり、首を傾げてみるもその引っ掛かりが何かはわからなかった。
「ところで町田くん、今日の夜ご飯はもう決まってる?」
「あ、えっと、今日は」
非常に良くない状況だということは分かっていたので、酒井はきっと嫌な顔をしているに違いないと思いつつ縁側に視線を向けた。
ところが、酒井は俺なんて全く眼中になく、塀の向こうの美しい隣人をぽかんと見つめていた。
その様子はまるで俺が初めて相沢琴音と出会った時と同じようだった。
俺はなんだかホッとして、一息ついてから琴音に向き直った。
「彼女が遊びにきてるんです」
「彼女……え!町田くん、彼女出来たの!?」
「ひゃー!」と、間抜けで可愛い声を出しながら、他人のことなのにやたらと嬉しそうだ。
「あそこにいる子がそうです。酒井!」
呼ばれてハッとした酒井が俺の手招きに応じてこっちへ来た。