"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる

「酒井絵里です。初めまして」

「初めまして!隣に住んでいる相沢琴音です!」

ぎこちない笑みを浮かべる酒井とは対照的にいつも通りの明るい笑みを向ける琴音。

この場で彼女だけが何も知らないとはいえ、俺のせいで妙に緊張感のある構図が出来上がってしまっている。

だがここで酒井の存在を隠す方が良くない気がした。

紹介は済ませたのでさっさと家に帰ろうと口を開いた時だった。


「とっても綺麗」

急に酒井が琴音に向かって言った。

「酒井?」

俺の呼び掛けに酒井はハッとし、「声に出てた?」と確認してきたので頷いて返す。

無意識の行動に対して恥ずかしそうに顔を隠した。


「最近お庭の手入れをしたばかりだから褒めてもらえて嬉しいわ」

そして、隣人は自分の容姿がいかに整っているのかを知らないのか、頓珍漢なことを言っている。


「庭も綺麗ですけど、多分違いますよ。相沢さんのことを言ってるんだと思います」

「私?」

目をまん丸に見開く彼女はやはり、自分の美しさに気づいていないらしい。

酒井は指越しにそっと琴音を見て頷いた。


琴音は一瞬困ったように眉を寄せ「そんなことないよ」と呟いたが、すぐに照れくさそうに笑った。

「今日はちょっとだけお化粧してるせいかな〜。なんだか照れちゃうわね。ありがとう。そういう酒井さんの方がよっぽど可愛らしくて素敵よ。ね?」

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