"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
本人が隣にいる現状で俺に振るのか!
友人から漸く恋人らしくなったばかりで、しかも互いを褒めることなんて殆どない俺たち二人。
可愛いなんて言葉は中々本人には言えないことだ。
そんな俺の返答はこれ。
「え、ええ、まぁ」
まぁ、ってなんだ。もっと言える言葉があっただろうと言ってから後悔する。
なんだか焦ってしまって首の後ろを思わず触った。
そんな俺をクスリと笑って、洗濯籠を抱えた琴音。
「そろそろお邪魔虫は退散するとします。二人ともこれからも仲良くね」
居間の窓から家の中へ入っていく彼女の後ろ姿を二人で見送った。
「……文化祭の時にさ、全然私のこと褒めてくれなかったくせに相沢さんのことは綺麗ってすぐに褒めてて、なんだこいつって思ってたんだけど」
聞いてたのか。
というか、そんなことを思ってたのかよ。
あの場を見られていただけでなく、会話も聞かれていたとは思わなかったが聞かれていたとしたら、酒井を傷つけたことは間違いない。
ごめん、と言おうとすれば先に酒井が口を開いた。
「そりゃそうなるわな。相沢さん、本当に綺麗な人で見惚れちゃったよ。今日ですら綺麗なのに、あの日はもっと綺麗だったんだろうなぁって」
あの文化祭の日、確かに琴音は誰よりも美しかった。
女性を褒めるなんて中々できないことも、あの美しさの前では素直に言葉にできてしまった。
けど、あの日は酒井だって……。
口に出すのを躊躇われた言葉を今こそ言うべきなのにやはり言葉にすることはできなかった。