"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
惚気だ。夫婦の惚気を聞かされている。
そんなことを思いながら琴音が作った料理を口にする。相沢家でお世話になる度のお約束事のようなものでもう慣れた。
「絶対嘘だ」
疑わしい目を向けられても大洋は平然としていて、「洋ちゃんの歴代彼女はみんな細かった」と言われても無反応。
これは果たして俺が聞いてもいい内容なのか。
そうは思いつつ、聞いてしまったからには気になってしまうもので。
「お二人っていつ知り合ったんですか?」
二人は顔を見合わせ、口を揃えた。
「生まれた時からだね」「生まれた時からだな」
「生まれた時からずっと一緒なんですか?」
「中学と高校は別のところに通ったけど、私が付き纏ってたからずっと一緒だったよね?」
琴音の問いに大洋はなぜか険しい顔をしながら頷いた。
それを察知したのか、琴音は困ったように笑って「ずっとでもなかったか」と呟いた。
「でも、小さい頃から……それこそ、感情とか思考が成立する前の赤ちゃんの時から知ってるって考えたら洋ちゃんとも長い付き合いだよね〜」
うんうんと一人で頷いて、それからハッとしたように「だからやっぱり太らないようにしないと!」と、最初の話題まで戻ってしまった。
「持てる範囲で買えよ」
鋭い目つきだが言い聞かせるように言う大洋は彼女を心から心配しているのだろう。
あの上り坂を大量の荷物と共に上る彼女は見ていて不安になる。これから夏になるから尚更だ。
また去年のように熱中症になってしまうかもしれない。