"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


平松は愚痴と称した彼女のこれまでの人生についてを淡々と簡潔に語った。

彼女の時代はお見合いで知り合うことも政略結婚もよくある話で、旦那ともそうして出会ったらしい。

あれよあれよと言う間に結婚し、すぐに実家や義母から「子供はまだか」と急かされる日々が始まった。

けれど中々子供は出来ず、漸く初めて授かった子供も流れ、それから何度も繰り返され、最終的には心は病み、体はもう妊娠するのは難しくなってしまった。

そんな時に平松の旦那が連れてきたのが子犬のマルチーズだった。

まるで綿菓子のように白くてフワフワした小さな生き物。

可愛らしかったが彼女は動物が苦手で旦那も同じだった。……いや、それ以上に苦手らしい。

ハウスキーパーにでも任せればいいと言われたが、ハウスキーパーがいない時は誰があの小さな命を守るのか。

彼女は苦手ながら、旦那が連れてきてくれたからという気持ちとこの子の世話をしなければという気持ちから子犬マルちゃんを自らの手で育て始めた。

< 227 / 259 >

この作品をシェア

pagetop