"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


平松家から用意された再婚相手候補がおり、その相手が妊娠し、子供を産んで実家から用意された家に住んでいる、と。

平松は当然何を言っているのか理解できなかったが、家のことを考えれば当然のことだったと妙に冷静な頭で目の前の旦那を見据えた。

彼は動揺することはなく、悪びれた様子でもなく、ただ淡々と事実を述べたというように冷静だった。

冷静だった彼女の頭の中が怒りで燃え上がるのは仕方がない。

政略結婚とはいえ、無口で下手くそな優しさを持つ旦那を愛していた彼女からすれば裏切りでしかなかったのだ。

三年前ならもしかしたら、最後の希望を抱くことだってできたかもしれない。なぜ何も言わなかったのか。なぜ、妻がいる身でそんなことができたのか。

そして、どうして平気そうな顔で家に帰ってこれたのか。

事情があるにしてもあんまりだった。

けれど、愛情が軽蔑に変わってもそれを顔には出さなかった。

しかし、その告白から旦那は週に何度、月に何度かしか帰って来なくなってしまった。

離婚を言い渡されることも覚悟したが、何故かそれはなく、今に至るという。


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