那須大八郎~椎葉の『鶴富姫伝説』~
 盗賊の襲撃が一段落した後、水流は美砂に尋ねた。
「着物をはだけて脚を見せたのは何かの合図なのか。」
「何か事を起こせば相手が反応します。男と女の戯れで油断していると思うのか、物の怪のような怪異と思うのか、それとも単なる好奇心で近づいてくるのかです。」
 水流の問いに美砂は淡々と答えた。水流が再び尋ねた。
「今回はどう思った。」
「やはり相手は我々よりこの土地にはるかに詳しいようですから、物の怪ではなく我々が油断していると思ったかと。ただ裏をかかれるのにはあまり得意ではなかったようです。」
 そう言った美砂を水流は褒めた。
「あの状況であれほど大胆なことをする女なんてそういるものではない。それ以上に後始末が見事だった。明け方街道を通る者は今夜このような出来事があったとは思うまい。」
「世の中、何事もなかったようにしておくのが一番です。特に夜はそうです。闇が色々と隠してくれます。昼間は逆です。余計なものまで見せて相手に妄想を抱かせます。」
 美砂の話を聞いた水流は言った。
「 鬼の術、天狗の技もそうなのか。」
「昼は天狗の技、夜は鬼の術をよく使います。今夜は人が消えましたから。」
「なるほどな。」
 水流は心強い味方を与えてくれた尼御台(まさこ)尼御台に感謝した。
< 11 / 21 >

この作品をシェア

pagetop