転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
 脳力を使えない、使わない自分になんの価値があるのかを思い悩み始めていると、ちょうど前回の予知を見てから一週間経っていた。

 そしてその日……突然、母が死んだ。俺が見た悪夢と、まったく同じ死に方で。

 あれは、悪夢なんかじゃなかった。加えて、そのとき初めて俺は気づいた。俺の見る予知は、三日ではなく一週間の猶予があるものだということに。

 母がいなくなったという現実を、どう受け止めたらいいかがわからない。もっと俺がちゃんとしていれば、今までみたいに母の死を回避することもできたのに。
 深い悲しみと後悔に苛まれ、自分を責めることしかできずにいた。

 母の葬儀はあっという間に終わり、最愛の母を亡くし抜け殻のようになっている父に、兄が歩み寄る。
 そして、兄はとんでもないことを言い出した。

「父様。……母様を殺したのは、フィデルです!」

 一瞬耳を疑った。それは父も同じだったようだ。驚愕して、兄のことを見つめている。

「どういうことだ。エリオット」
「だってフィデルの力があれば、母様の死を予知し、回避できたはずです! フィデルは母様の死を知ってて黙っていたのです!」
「……確かに。エリオットの言う通りだ。いくら見る未来を選べないといえど、母親の死という身近な出来事を、フィデルが見ないはずがない。どうして黙っていたんだ!」
「……ちがう。ちがいますお父様。だって、僕は」

 僕は――俺は、言ったはずだ。兄に、母が死ぬ予知を見たことを。

 なぜ兄はその事実を隠し、父にそんな嘘をつくのか。……答えは簡単だった。兄は、最初からこうするつもりだったのだ。
 自分を一番にしてくれない母への愛など、兄は持ち合わせていなかったのだから。

「お前が殺したんだ。フィデル」

 父は兄の言葉を信じ、母の死を俺のせいにすることで、自分を保っているように見えた。父の後ろで、兄――エリオットが笑っている。

「このまま力をフィデルだけのものにされれば、もっと恐ろしいことが起きてしまいますよ」

 エリオットのその言葉で、俺は人々を救う特別な異能者から、人々を脅かす恐ろしい異能者となった。
 世間に俺という存在を隠すために、母を殺した罪滅ぼしのために……理由は様々あったのだろう。
 こうして、俺は別邸で、終わりの見えない幽閉生活を送ることになったのだった。

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