転生令嬢はまるっとすべてお見通し!~婚約破棄されたら、チートが開花したようです~
兄は母が死ぬかもしれないというのに、他人事みたいにずいぶんと冷たい反応だった。
……でも、もしかしたら兄の言う通り、俺は悪夢を見ただけだったのだろうか。さっき見た恐ろしい光景が、頭の中にこびりついて離れない。
俺はそのまま、母の部屋を訪ねた。母は起きていたようで、驚いた顔をしながらも、いつもと同じ優しい笑顔で俺を迎え入れてくれた。
母に背中をさすられながら、俺は言うべきか悩んだものの、怖さに勝てず母にすべてを話した。一切の動揺を見せず、最後まで話を聞いた母は、俺を包み込むようにふわりと抱き締める。
「小さなフィデルを置いて、私は先に死なないわ」
母はひとこと、小さいが力強くそう言った。
見上げると、俺を安心させるように母はにっこりと微笑む。その姿を見て、俺はやっと心が落ち着きを取り戻すのを感じた。
「でも、お父様がこのことを聞いたら心配しちゃうから、内緒にしておいてくれる?」
眉を下げ、母は照れくさそうに言う。父の母への溺愛ぶりは、子供ながらに見ていて恥ずかしいほどだったので、母の頼みを俺はすんなり受け入れることにした。
「……はい! お母様」
「ふふ。フィデルはいい子ね」
その日はそのまま、母の腕の中で寝た。悪夢を見たとは思えないほど、心地よい眠りにつくことができた。
母が死ぬ予知を見てから、なにごともなく三日間が過ぎた。
――やはり、あれはただの悪夢だったみたいだ。
ほっとしたと同時に、俺はこの出来事をきっかけに予知能力を使うことが怖くなっていた。楽しく明るい未来だけならいいが、怖くて不安な未来も容赦なく俺の目には映ってしまう。
自分で力をコントロールできるようにはなっていたので、俺はあまり力を使わなくなった。でも、周りは俺に力を使わせたがる。
……母が懸念していたのは、きっとこのことだったのだろう。