恋人のフリはもう嫌です

「どうしたのかしら。お友達と喧嘩でも?」

 喧嘩できる間柄なら良かった。
 千穂ちゃんと喧嘩したら、どうなるのかな。

 どうしてか楽しそうな映像が浮かび、自分の変化に笑う。

 女性に泣かれるのも、女性に非難されるのも、面倒だとばかり思っていたのに。

「上手くいかないなあ」

 つい弱音を漏らし、肩を落とす。

「大丈夫。お兄さん、いい人だもの。相手の方にも伝わっているわ」

 陽だまりのような笑みを向けられ、俺は質問をする。

「おばあちゃんがおじいちゃんと添い遂げたいと思ったのは、どんなきっかけ?」

 おばあちゃんは、照れたような表情を見せた。

「そうねえ。とても優しい人で、つらい時はいつも傍にいてくれたから」

 傍に、居たいのは自分だ。
 自分の中にある彼女への想いを感じ、もどかしくなる。

「素直になれば大丈夫。仲直りできるわよ」

 優しい微笑みに、再び頬を緩ませた。
< 121 / 228 >

この作品をシェア

pagetop