恋人のフリはもう嫌です
「どうしたのかしら。お友達と喧嘩でも?」
喧嘩できる間柄なら良かった。
千穂ちゃんと喧嘩したら、どうなるのかな。
どうしてか楽しそうな映像が浮かび、自分の変化に笑う。
女性に泣かれるのも、女性に非難されるのも、面倒だとばかり思っていたのに。
「上手くいかないなあ」
つい弱音を漏らし、肩を落とす。
「大丈夫。お兄さん、いい人だもの。相手の方にも伝わっているわ」
陽だまりのような笑みを向けられ、俺は質問をする。
「おばあちゃんがおじいちゃんと添い遂げたいと思ったのは、どんなきっかけ?」
おばあちゃんは、照れたような表情を見せた。
「そうねえ。とても優しい人で、つらい時はいつも傍にいてくれたから」
傍に、居たいのは自分だ。
自分の中にある彼女への想いを感じ、もどかしくなる。
「素直になれば大丈夫。仲直りできるわよ」
優しい微笑みに、再び頬を緩ませた。