恋人のフリはもう嫌です
そそくさと席を立ちたいのに、西山さんが椅子を後ろに引いて座っているせいで、カウンターの端にいる私はここから抜け出せない。
会話に水を差しそうで気が引けるけれど、ここにいるのも居た堪れない。
「すみません。通してもらえますか」と声をかけようか。
腹を決め、声をかけようと思っているのに、女性のマシンガントークがすごくて、割って入るのが憚られる。
酔っているために大胆になっているのか、ほとんど彼にしなだれかかりそうな彼女から、距離を取るように西山さんは椅子を引き、目一杯体を遠ざけていた。
なんだ。
誰でもいいというわけではないんだ。
少しだけ彼を見直していると、殺伐とした会話が聞こえた。
「見てください。これ、私の姪っ子です。可愛いですよね〜」
「そう」
いや、冷たいのは西山さんの声だけだ。
女性の方の熱量とのあまりの違いに、漏れ聞いている私が身震いをする。
「もっとちゃんと見てくださいよお」
腕をつかもうとする彼女から、彼はひらりと身を躱す。
「俺、子ども嫌いだから」
ブリザードが、隣で吹き荒れていますか?
そう聞きたくなるような声色に、心の中で「吉岡さ〜ん」と半泣きになる。