恋人のフリはもう嫌です
それなのに、女性はまったくもって心が折れていないみたいだ。
ある意味、尊敬する。
「結婚しても夫婦の仲を邪魔されたくないとか、そういうのですか?」
すごい!
超絶ポジティブシンキング!
彼女の見事なまでの応戦に、彼は気のない声で答える。
「まあ、そんなとこ」
この温度差に気付かないって、お酒の力は怖いなあ。
「西山さんの奥さまになられる方は幸せですね。ものすごく愛されて」
そこへ着地するあなたが素晴らしいです。
「ああ、だから俺に愛されてみない? 千穂ちゃん」
彼女の切り返しの素晴らしさに感動すら覚え、ひとり頷いていた私。
そこへ来て、突然名前が呼ばれ面食らった。
「え、私?」
私の名前は藤井 千穂です。
心の中で自分自身に自己紹介したくなるほど、彼の言動が不可解で理解が追いつかない。