恋人のフリはもう嫌です

 それなのに、女性はまったくもって心が折れていないみたいだ。
 ある意味、尊敬する。

「結婚しても夫婦の仲を邪魔されたくないとか、そういうのですか?」

 すごい!
 超絶ポジティブシンキング!

 彼女の見事なまでの応戦に、彼は気のない声で答える。

「まあ、そんなとこ」

 この温度差に気付かないって、お酒の力は怖いなあ。

「西山さんの奥さまになられる方は幸せですね。ものすごく愛されて」

 そこへ着地するあなたが素晴らしいです。

「ああ、だから俺に愛されてみない? 千穂ちゃん」

 彼女の切り返しの素晴らしさに感動すら覚え、ひとり頷いていた私。
 そこへ来て、突然名前が呼ばれ面食らった。

「え、私?」

 私の名前は藤井 千穂です。
 心の中で自分自身に自己紹介したくなるほど、彼の言動が不可解で理解が追いつかない。
< 14 / 228 >

この作品をシェア

pagetop