恋人のフリはもう嫌です
なにかを考えるように腕を組み、顎をさする松本社長は、西山さんではなく私に質問を向けた。
「西山さんの、システム開発者としての手腕は、同僚から見てどうかな」
突然、毛色が違う質問をされ、目を見開いて松本社長を思わず凝視する。
「聞かれて、困る質問だったかな」
松本社長が頬を緩ませて言われるものだから、慌てて答えた。
「彼は我が社のエースです! キタガワ製作所が注目される企業になったのは、彼がシステム構築に尽力したお陰です」
勢いで言い切ると、松本社長は驚いたような表情をしていた。
つい声のボリュームが上がり、興奮気味な自分に気付く。
「すみません。大きな声で」
力説して、驚かせてしまった。
「随分と、心酔されているみたいだね。西山くん」
恥ずかしくなって目を伏せる私の横で、お二人は私の知らない話を始めた。
「残りの19台はもちろん、うちから納品させていただきます。その後の話は、また別で」
「本社で試験的にシステムを導入し、その後は全社展開したいと考えています。追加個数も御社から買わせていただきたいです」
「もちろん、それも歓迎ですよ。ですが」
言葉を濁らせる松本社長に、西山さんは持参した資料を差し出した。
「渋られているのは、インターネット販売の件でしょうか。我々としては、是非とも実現させていただきたいです」