恋人のフリはもう嫌です

 彼女の気迫に押され、後退ると背中でなにかにぶっかった。

 私を優しく受け止めた温もりと、彼の匂い、「巻き込んでごめん」という囁きは、全て西山さんだった。

「透哉さん」

 彼女の喜びと戸惑いが混じる声を聞き、胸が苦しくなる。
 忘れられない『ミイ』である彼女の想いを聞いたら、彼はどうするのだろう。

「何度も言っているよね。君の気持ちには答えられない」

 西山さんの揺るぎない声に、目の前の女性の顔が歪む。

「私の方が、透哉さんの全てを」

「だから迷惑。はっきり言ってもわかってもらえないのなら、実力行使も厭わない。俺が、有能なシステムエンジニアだって知っているよね?」

「それはもちろんです」

 女性は頬を紅潮させて答えた。

 私は状況を把握できずに、ただただ成り行きを見守った。
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