恋人のフリはもう嫌です
先ほどのブリザードはどこへやら。
甘く溶けてしまいそうな眼差しを向けられ、目が点になる。
彼は完全に体ごと私に向き合い、言い寄って来ていた女性には背を向けてしまっている。
「西山さんったら」
さすがに拗ねたような声が聞こえ、私は気が気ではない。
それなのに、彼は甘いマスクをますます甘くさせ「俺、千穂ちゃん好きだな」と、訳の分からない台詞を言ってのけた。
「もう! 西山さん、知らない!」
背中を向けられ、目の前で別の女性を口説き始めた西山さんに呆れたようで、あんなにポジティブだった女性も怒って席を離れて行った。
あの女性の矛先が私に向かったら、どうしてくれるんですか!
女性の嫉妬は恐ろしいんだから!
完全にダシに使われた私は、キッと彼を睨みつけた。