恋人のフリはもう嫌です

 彼は続けて話す。

「千穂ちゃんはまだ若くて、結婚なんて考えられないだろうって。だから、松本さんに嫉妬して」

「どうして、そこで松本さんが」

 彼は恨めしそうな視線だけ寄越し、再び視線を逸らして言った。

「年齢が近いから」

 理由を聞いて愕然とした。
 私たちは聞きたい言葉や、言いたい言葉を飲み込んで、すれ違っていたのだとようやく気がついた。

「あと子どもは、千穂ちゃんとの仲を邪魔されそうで」

 私は思わず彼に抱きついて言った。

「透哉さんが、大きな子どもみたいです」

 きっと彼が大人で常に冷静だというのも、私の思い込みで。

「ああ、そうだよ。千穂ちゃんとの仲を、誰にも邪魔されたくない」

 不貞腐れた声を出す彼に、思わず吹き出した。

「だから嫌なんだ」

 ますます不貞腐れた声を出す彼に、私は余計におかしくて笑っていると、彼は不貞腐れたまま言った。

「自分の中にこんなにも身勝手な独占欲があるとは、思わなかった」
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