恋人のフリはもう嫌です

「きっと透哉さんなら、子どもが生まれてもいいパパになれますよ。透哉さんに似た男の子なんて、イケメンだろうなあ」

 夢見心地に言う私に、彼は嫌悪感を露わにする。

「やめてよ。俺に似た子どもが女の子をはべらかしていたら、げんなりする」

 心底嫌そうな顔をしている彼の横で、その光景が容易に想像できてますます笑う。

「パパも昔はそうだったなあって、武勇伝を競いあわないでくださいね」

 冗談で言ったつもりなのに、自分の言葉に胸の奥がチクリとした。
 彼はそれに気づいたのか、それとも本当にそう思ったのか、私の言葉を否定した。

「俺なら「数を競ううちは、まだまだ子どもだ」って嗜めるよ」

「なんですか? それ」

「俺は、たったひとりでいいから」

 彼は私の髪に手を差し入れ、引き寄せてキスをする。

「もう」という文句も、嬉しさで格好がつかない。
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