恋人のフリはもう嫌です

 松本機器とは正式な契約が交わされ、キタガワで販売する計画が着々と進められている。

 私が指摘したからなのか、松本さんは透哉さんを慕うようになり、透哉さんはたまに複雑な顔をする。

 私たちはといえば、相変わらず。
 すれ違いから気まずい雰囲気になって、言葉が足りなかったとお互いに反省して過ごしている。

 今日は、彼が私のほかに会っている女性がいるのだと勘違いして、その誤解を解くと連れられてきた。

 その女性に会わせるからと言われ、やっぱり会っていたんじゃない! と、目くじらを立てるつもりが、到着した場所に驚いて言葉を失った。

 その場所は、祖母も入っている養老施設。

「ここ、私のおばあちゃんも入所しているんです」

「そう」

 彼は言葉少なに返答する。
 この言葉の少ないところが勘違いの元だったりするのだけれど、私が彼の好きな部分だったりもする。
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