恋人のフリはもう嫌です

「三ヶ月付き合っている恋人同士というには、俺たちよそよそしいと思うんだよね」

 彼は手の甲で私の頬に触れた。

 彼が私に触れるのは、あの歓迎会以来だ。
 あの時は酔っ払いのたわむれだと思っていたし、なんなら恋人役の話も冗談だとばかり思っていたくらいで。

 恥ずかしさで顔を俯かせると、彼の苦笑している声が聞こえた。

「俺、会社でなんて呼ばれているか知っている?」

「社内一のモテ男、ですか?」

「褒めてくれている? ありがとう」

「いえ。どう致しまして」

 よく分からない会話を済ませると、触れていた手の甲が滑らされた。
 思わず肩を縮めた私の反対側の頬は、滑らせた手の内側で包まれた。

 そのまま顔を上に持ち上げられ、彼と視線が絡む。

 あ、マズイ。
 蛇に睨まれた蛙だ。

 心臓の音だけが、ドッドッドッと耳につく。

 長いまつ毛に縁取られた双眼が、真っ直ぐに私を見つめている。
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