恋人のフリはもう嫌です

「俺、歩く孕ませマシーンらしいよ」

 言葉の衝撃力にやられて吹き出すと、さりげなく彼の手から逃れ肩を揺らして笑った。

「命名した方、すごいですね」

「笑うところ?」

 呆れたような声を出しつつも、西山さんもつられて笑っている。

 私だって、西山さんが『目が合っただけで妊娠させられる』と揶揄されているのは知っていた。

 飲みの席の冗談ではなく、本気で恋人らしい雰囲気で接してこられれば、遊んで捨てられるくらいのアバンチュールが訪れると覚悟した。

 けれど、全くそういう状況になる気配はなく。

「ね、千穂ちゃんには察しろよっていうのが無理だと分かったから、単刀直入に言うね」

「なにがですか?」

 見上げると彼は、真面目腐った声で告げた。

「キスしてもいい?」

「そ、それは」

 思わず後退りした私の手は、彼に捕まえられた。
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