恋人のフリはもう嫌です

「近づくだけで、こうも赤くなられちゃ付き合っていないとすぐバレるでしょう? それとも、お子様のままごと付き合いが良かった?」

 お子様のままごともなにも、フリでしょうが。
 恋人のフリ。

 心の中のツッコミも、口先から出る間に変換され、どうしようもない悪態になる。

「西山さんこそ、なにを怯まれているのですか。キスのひとつやふたつ」

 だから、どうして私のお口は勝手な意思を持って動くのでしょう。

「それは失礼したね」

 口の端を上げた西山さんは、余裕な笑みを浮かべ私ににじり寄る。
 思わず後退る私に、近づく彼。

 とうとう壁際に追い込まれ、窮地に陥った。

 170センチ近くある私に対し、見下ろす彼は185センチは越えていそうだ。

 背伸びして顔を近づけるべき?
 手慣れている女性はどうするもの?

 爆発しそうな頭と心臓が相談した結果、彼の首に腕を回そうと伸ばした手は、長さと勇気が足りなくて彼の肩辺りを捕まえた。

 ええい!
 どうにでもなれ!

 ギュッと目を瞑り、微動だに出来ずにいると、ふわっと優しい感触が眉間に着地した。

「かわいい顔が台無しだ」
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