恋人のフリはもう嫌です
彼が顔を離していくのを感じ、ほどけそうになる手に力を込めて言葉をこぼす。
「意気地なし」
ああ、本当に。
誰か私の口にチャックを付けて、常時監視してください!
フッと息を漏らした彼が、指でおでこをぐいっと押した。
「生意気言わないの」
完全な子ども扱い。
それはそうだ。歳が離れているもの。
けれど、どうしようもない本音がこぼれた。
「キス、してください」
恋人役に、ここまで求めていいのか分からない。
たかが恋人役、なのだから。
「あの、だって恋人らしい雰囲気を出さなかったら、恋人のフリもなにも」
「もういいから、黙って」
再び顔を近づけた彼が、顔を傾けて目を閉じた。
美しい顔立ちが近づいて、鼓動が乱れる。
震えるまぶたを閉じたところで、私の唇に彼の唇がそっと重ねられた。
胸が苦しくなると同時に、甘酸っぱい痛みが広がる。