恋人のフリはもう嫌です

「みんな、彼と話す機会がほしくて。たいして困っていないのに、連絡しちゃうわけよ。ヘルプデスクに」

 歓迎会の光景から、その光景が結びついてため息を吐く。

「大変そうですね」

「だから最初の頃に対応して、懲りたんでしょうね。彼は、システムを作る仕事の専任になって。説明や操作不具合は、別の人が担当するようになったってわけ」

 その判断は正しい気がする。
 仕事に不必要なアプローチに時間を割いていたら、彼の場合、仕事どころじゃなくなりそうだ。

 モテる人は大変だな。

 他人事のように思ってから、重大な事実に気付く。

「って、最近の私は、彼を下界に呼び出しています!」

 やっと気付いた私に、吉岡さんは笑う。

「そう。だから愛の力は偉大だなって」

 終着点がそこになって、私は全くもって肯けない。

「え、ちょっと待ってください。彼は天空人で、お殿様で? 下界に降りて下々の者たちとは関わらない人、なんですよね?」

 今まで聞いてきた彼の存在を要約すると、そうなるはずだ。
< 48 / 228 >

この作品をシェア

pagetop