恋人のフリはもう嫌です

 そういえばと思い、西山さんに質問をする。

「西山さんは吸われないのですか。煙草」

 今まで彼といて吸っている姿は見なかったけれど、彼が吸っている姿を想像すると似合いそうだ。

「女の子、好きじゃないでしょ。煙草の味」

 何気なく質問した答えの、小さな言葉の端が引っかかる。

「味?」

「いや、ごめん。今のは失言」

 西山さんは口元に手をかけ、バツが悪そうに言った。

 臭いじゃなく、味という辺りが失言なのだろう。
 彼が煙草を吸った場合、女性が味を知る状況を想像しそうになって頭からかき消した。

 つい、冷ややかな声が出る。

「今さら取り繕っていただかなくても、十二分に聞き及んでおりますので」

「ああ、そうだよね」

 ホッとした声色を出す彼に、心の奥底にわだかまりが残る。
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