恋人のフリはもう嫌です
話してみたいと言っていた、吉岡さんの望みは叶いそうにない。
まあ、あれは半分冗談みたいなものだろうから、いいのだろうけれど。
吉岡さんも、無理にあの女性の中に入ろうとはしないようだ。
私と二人、座敷には背を向けてカウンターでいつも通りのたわいのない話で盛り上がった。
「藤井ちゃん若いのに彼氏がいないとは、意外だわ。引く手あまたでしょう」
「どうでもいい人に、好かれても」
つい本音を漏らすと、吉岡さんが楽しそうに話に乗った。
「あらま。思わぬ毒舌。私の心を射止めてみなさいよってところ?」
「まさか。そこまで上から目線じゃないですよ。ただひとりの人から好かれれば、それでいいというか」
なんだか自分に酔っているみたいな発言に恥ずかしくなって、もごもごと口の中で言う。
酒を飲んでも飲まれるな。
20歳にして、大事な教訓を思い出す。
けれど吉岡さんもいい具合に酔っていて、私よりも熱く頷いた。
「そうよね。極論を言えば、そうなのよね」