恋人のフリはもう嫌です

西山透哉side

「お客さん。困ります。もう、店閉めますよ」

 肩を揺すられ、目を開けると目の前に千穂ちゃんの寝顔があり、眉間にしわを寄せた。

 ここはどこだ。

 状況を把握しようと顔を上げ、腕の痺れと体の痛みに顔を歪める。
 居酒屋でうたた寝をしていた状況をつかみ、千穂ちゃんを呼び出したのは健太郎かと、頭の中で状況を整理した。

 混濁した記憶の淵で、健太郎に言われた「千穂ちゃんと喧嘩したのなら、仲直りしろよ」とのセリフが蘇る。

「なんだよ。余計なお節介」

 ひとりごちていると、早く出て行けと急き立てる店主にせっつかれ、千穂ちゃんを起こす。

「千穂ちゃん。起きて。ここは出よう」

 寝ぼけ眼の千穂ちゃんの手を引き、追い出されるように店の外へ出た。
< 97 / 228 >

この作品をシェア

pagetop