隠り世の万屋さん


「…え!?」


「少し昔話をしようか」


魅寿々はそう言って目を細めた。


「ボクは5歳下の弟がいた。
 弟はうんと可愛がられていた。
 ボクと違ってね。
 ボクはと言うと毎日毎日犬とかが入るケージに
 閉じ込められて虐待を受けていた。」


そう言って魅寿々は腕のシャツをめくって
傷を見せた。


それは痛々しいものだった。


火傷に切り傷、無数の痣。


魅寿々はそれをしまうと続けた。


「その日はいつも通り暴力をうけていた。
 けどちょっと違ったのがご飯を貰えた事で、
 その時は特に何も考えずご飯を食べた。
 そうしたら体に凄い激痛が走った。
 痛みに耐えられずボクは気絶したんだ。
 目を開けたら両親と弟が嬉しそうな顔で
 ボクの近くに座っていた。そのあとこう言った
 『やっと成功した』『不老不死が誕生した』
 って。」


「不老…不死…」


「そ。ホムンクルスって知ってるかい?」


「ホムンクルス?」


「英国の錬金術師が作り出した人造人間の事だ。
 ボクが食べたのはそのホムンクルスの心臓」


「心臓を…食べ…」


顔が青くなっていく青年。


魅寿々はそれを見てフ、と笑った。


「御免御免、そこまで青くなるとは」


「い、いや、大丈夫…」


「大丈夫には見えないけどね」


魅寿々は苦笑いして青年に聞いた。


「それで、キミの名前は?」


「えっと…鋳酢鬽 真琴(イズミマコト)…」


「ん。宜しく鋳酢鬽!!」


ニコ、いや、ニッと笑って魅寿々は返した。


そして何をしたかったのか黒い狗から飛び降りた


「え、ちょ!?」


鋳酢鬽が手を伸ばしたものの魅寿々は
掴まなかった。


と、元気な声が聞こえた。


「心配しなくても平気だ鋳酢鬽!!」


よく見ると建物の最上階らしき所に立っていた。


そして魅寿々は言う。


「改めて…ようこそ!!長寿の万屋へ!!」
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