転生人魚姫はごはんが食べたい!
 けど、そもそも喧嘩をしたわけではないと言わせてほしいわね。とはいえ出掛ける前にもニナから心配されてしまったし、ここにイデットさんがいたら心配どころか顔を青くさせてしまったわね。実家に帰省していてくれて不幸中の幸いかしら。

 イデットさんの心の平穏のためにも帰ってくるまでに解決しておかなければと気合を入れ直す。となるとタイムリミットは残り少ないどころか僅かとなってくる。

「そういえば、イデットさんは今日帰ってくる予定だったわね」

「あーあ、もう帰ってくるんだ。僕、あの人ちょっと苦手なんだよね」

「そうなの? とてもそんな風には見えなかったけど」

「甘い物食べ過ぎるなって口うるさいんだもん!」

 子どもっぽい理由にうっかり笑ってしまったら身構えた通りに怒られた。エリクは頬を膨らませて、自分の話を誤魔化すように早くこの気まずい空気なんとかしてよねと再度念を押す。
 まだ帰らない旦那様を不安に思いながら、私は落ち着こうとメイドが用意してくれたカップを手に取った。じっとしていると悪い想像ばかりしてしまうから、気を紛らわせるためにもと手配してもらったものだ。ほんのりと赤く見える紅茶からは美味しそうな香りがする。
 けれど一口飲み込んでから、喉の奥には違和感が残った。消えたはずの液体は爪痕を残し、私はとっさに口元を手で覆う。

「君、どうしたの!?」

 異変に気付いたエリクが席を立つ。慌てて私の隣に膝を着くと様子を窺っていた。
 咳き込み、飲み干しきれなかった液体が口元を伝う。じわじわと涙まで滲み始めた。

「まさか毒!? 誰か……い、医者!?」

 狼狽えるエリクを安心させようと私は彼の手を握り手のひらに文字を書く。

「か、ら、い……え、辛い?」

 私が書いたのは辛いという単語だ。その瞬間のエリクの冷め切った眼差しといったらない。私は辛くて声あげられないに!

「なんだ、焦って損したよ。砂糖と塩でも間違えたのかな?」

 そういう次元の辛さとは違うんと思うけど……

 生憎主張は出来そうにない。まだ喉の奥が燃えているような気がする。

「水、貰ってきてあげるからそこになよ」

 エリク様万歳!
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