転生人魚姫はごはんが食べたい!
 迎えの女性は最初に目にした通り、背筋を真っ直ぐに伸ばしたまま身じろぎもしない。背後から見た印象では細っそりとした身体つきに、おくれ毛すらも許さないと言うような完璧に結い上げられた髪型が妙な迫力を感じさせた。
 いきなり背後から声を掛けて驚かさないよう、私はわざと靴音を響かせて近付く。

「貴女が迎えの方かしら?」

 微動だにすることのなかった女性は私の気配に気付いて振り返る。眼鏡のレンズ越しに私たちは視線を合わせているけれど、皺の刻まれた目元は見るからに驚いていた。

「貴女はいったい、どこから現れて……」

 まあ、そうなるでしょうね。

「初めまして。私はエスティーナというの」

 私が名乗ると女性は短く息を詰め、姿勢を正した。
 
「貴女様が……それはっ! いえ、詮索は迎えのお役目を賜りましたわたくしには関係のないことでしょうに……。どのような方であろうと、わたくしは……」

 女性はすぐに落ち着きの色を取り戻す。表情と共に声からも驚きは消えていた。驚くという感情が去り後に残されたのは厳しさを伴う目つきだ。本来は感情の起伏が乏しい人なのかもしれない。

「大変失礼致しました。わたくしは旦那様の命によりエスティーナ様をお迎えにまいりました。イデット・ノーマンと申します。わたくしたち使用人一同、エスティーナ様をお迎え出来ますこと、心より嬉しく思います」

 嬉しい、ねえ……

 そうは言ってもつんとした物言いは人を突き放すような雰囲気を放っている。厳しそうな口調にはどうしても身構えてしまう。

「エスティーナ様。まずはわたくしからは一言、発言を許可いただけますでしょうか?」

「もちろんですわ」

「わたくしは幼い頃から坊ちゃま――っ、いえ。旦那様の成長を誰よりそばで見守ってまいりました」

「は、い……?」

 わけもわからず、私は相づちを打っていた。

「坊ちゃま――こほん。旦那様は、それはそれは可愛らしいお子様だったのです。父親譲りの人を惹きつけてやまない人望、母親譲りの繊細な美しさ。それでいて昔から少々お転婆な面も持ち合わせていらっしゃたのです」

 そう告げるイデットさんは少しだけ微笑んでいるようにも見える。でも、これは……そう、これは……

 何の話!?
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