転生人魚姫はごはんが食べたい!
「いや、なんか……想像してた人魚とだいぶ違うからさ」

 可笑しそうに笑う旦那様に私はからかわれているのだと口を尖らせる。ちょっと子どもっぽいだろうけど、止められなかった。

「なんですか、助けてもらった人魚とやらに憧れでも抱いていたのかしら? もっとお淑やかで食事も控えめだったり? 残念ながらそういうのは私のキャラではありませんっ!」

 どちらかというと私の姉がそういうキャラです。

「想像と違って悪かったですね! でもこれは渡しませんから!」

 そう、きっと王子様は私のような人魚姫を前にして呆れるのよ。

 けれど旦那様の反応は、私の想像とは違っていた。

「悪いなんて言ってないだろ。俺は可愛いと思うぞ。……ん? ならお前、どうして泣いたんだ?」

「これは感動のあまり流れた涙なのです」

「は?」

「私、とても幸せ者でしたから」

 ここにたどり着くまで、正直に言っていくつかの不安があった。

 だって世の中にはいくつもの世界が存在するわけでしょう? 私が前世で生まれ育った世界とこの世界は明らかに違うわけだし、きっと食文化も世界によって違うはずよね?

 昨日まで人魚でいた私にその全てを把握することは難しい。だから実際に食事をするまで、この世界が私の満足する食文化の世界なのか不安だった。
 けれどキッシュを食べて確信する。私は、私が求める幸せな世界に転生したことを。
 ナイフとフォークを使った食事の作法。キッシュを作り上げるための知識、そして美味しい食材。ここはおそらく、時代の差はあるけれど前世とそう変わらない食文化を築いている世界だ。

 私、とても素晴らしい世界に転生していたのね……

 懐かしい食事、その美味しさ、喜び、安堵、いろいろな感情が一度に襲ってきた。それは涙も溢れるというものだ。

「旦那様、いつかこの料理を作って下さった方に会うことは出来ますか? とても美味しかったので、直接感謝を伝えたいのです」

「早速紹介してやるよ。城中の奴らにな! みんなお前のことが気になって仕方がないらしい。この後時間もらっていいか?」

「もちろんですわ。そういえば、私の設定についてはイデットさんに聞かせてもらいました。しっかり話を合わせておきますね」

「勝手に悪かった。人魚だと知られたら危険だと思ってな」
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