転生人魚姫はごはんが食べたい!
 親友であるエリク様の慌てよう。お城の混乱ぶり。町の人々の驚き方。では実の両親はと心配するのは当然の流れだった。

「報告はしたぞ」

「そうですよね。私ったら、疑ってすみませんでした」

 ああ良かったと息をつけたのも僅かの間だ。

「手紙を送っておいたからな。さすがに届いてる頃だろ」

「事後報告もいいところ!?」

 それ、胸を張って言えることじゃありませんからね!

「え、あの、旦那様って……王子様ですよね!? 本当に本当の!?」

「一応な」

「だって王子様が結婚するって、一大事ですよね!? 私、きちんとご挨拶に伺った方がいいんじゃ……お、怒られません? というか絶賛怒られているはず!」

「そうか?」

「そうか? じゃありませんわ! だって、王子様なんですよ。王子様にはもっと有益な結婚相手がいたはずで、それなのに私、許可も取らずに結婚なんて……」

「俺は損得で結婚相手を決めたくはないぜ。ちゃんと俺が選んだ、愛した奴と結婚したい。お前は違うのか?」

「それは、そう、なのですが……」

「なんて、無理やり結婚を迫った俺が言えたことじゃないけどな。それと両親の話だが、母はいないから安心していいぞ」

「いない?」

「ああ、いない」

 そう告げる旦那様はどこか寂しそうだった。

「なあエスティ。仮にもこの国の第一王子ともあろう人間が小さな港町にいるんだ。おかしいとは思わないか?」

「……はい」

 ニナに質問してしまうほどには気になっていましたとも。

「俺が期待されていないからさ」

「どういう意味です?」

「俺の母親は平民で、俺が幼い頃にいなくなった。顔も覚えてないよ。残された俺にはなんの後ろ盾もない。父の親戚にあたるイストリア公爵家に拾われることでなんとか王子としての地位を保てているようなものさ。誰も俺が父の後を継げるとは期待していない」

 てっきり謙虚さから来るものだと思っていたけれど、だから旦那様はいつも自分のことを一応と言うの?

「悪かったな、エスティ」

「どうして私に謝るのですか?」

「そんな奴のところに嫁に来て、がっかりしただろ」
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