転生人魚姫はごはんが食べたい!
「嫌味? 今の、どの辺りが嫌味だったのですか?」

「勘弁してよねえ……」

 お疲れだったのかしら? エリク様はふらふらとした足取りで去っていきました。

 その日の夜、改心した私は行動を開始する。こういうことは、思い立ったら即日だ。
 床にシーツを敷いて仰向けに寝転ぶ。膝を立て、まずは一回目だ。

「んっ――」

 そう、私には感謝しかないのです。エリク様が指摘してくれなければ考えることもなかったでしょう。

「頑張って……私っ……の、腹筋!」

 このお腹について。

「はあっ……」

 ようやく起き上がり、記念すべき一回目が成功する。一回起き上がるだけに相当な労力だ。

「嘘でしょう……いくらなんでももう少しあるでしょう、私の腹筋……」

 背後のシーツに倒れこんむ今の私には所詮一回が限界のようです。

 限界早すぎない!?

 しかも疲労は濃く、まだお腹がぷるぷるするので起き上がれない。そんな疲弊する私の元を訪ねるのはどこの誰ですか?
 絶賛取り込み中てはあるが、どうぞと返事をすると顔を見せたのは旦那様だった。

「入るぞエスティ――って、どうした!」

 私の姿を認めるなり血相を変えて走り寄る。

「何があった!? 調子でも悪いのか!?」

 あ、もしかして。私、床に倒れているように見える?

「その……」

「ああ、どうした!?」

 緊迫する旦那様には非常に言いにくいけれど、見られてしまった以上、正直に話すしかないわよね。

「腹筋を、嗜んでおりました」

「は?」

 ほらー! そういう呆れた顔をされることは想定内ですー!

「腹筋です。この国にはないのですか?」

「知っているし、俺も時折嗜むが。なんでまたお前が?」

「ごはんが美味しすぎるのがいけないんです。朝ごはんも、お昼ごはんも、夕ごはんも! 私、このままだと手遅れになってしまいます。そうなる前に、鍛えておかないといけないのです!」

「それで、っ……腹筋を?」

「今笑いましたね」

 旦那様がそっと目を逸らしていく。

「肩が震えていますわ!」

 指摘する私は旦那様のお腹めがけて手を伸ばした。でも旦那様は、私がお腹に触れたところで堂々とした姿勢を崩さない。手を這わせて軽く突いても私の口から上がるのは不満の声だ。

「むうっ……」
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