転生人魚姫はごはんが食べたい!
 ちゃんと硬いので筋肉に嫉妬する。

 しっかりと鍛えていらっしゃるようで、羨ましいですわねえ! いったい腹筋何回出来るのかしらねえ!?

「それで、何かご用ですか? 腹筋自慢しに来たのならお帰りになって!」

「誰がそんな用で妻を訪ねるかっての」

「それは良かったですわ。夫婦喧嘩が始まってしまいますものね。何か大切なお話ですか?」

「いや、話自体はそうでもないぜ」

「ならこのまま話しても問題はない、ということですね?」

「いいぜ。存分に腹筋しろよ」

「では旦那様。私は続きをしますので、足を押さえていただけませんか?」

「随分真剣だな」

「乙女にとっては! 死活、もんだーいっ! です、からあっ!」

 ぜいぜいと息を切らしてなんとか二回目が成功。やっぱり足を押さえてもらうとやりやすい。

「それで? お、話っ、というのは!?」

 三回目に入ったところだ。

「明日も町に行くんだろ?」

「はい。視察と食べ歩きに。そして怪しい取引がされていないか、見回るのですわ!」

「俺も付き合うぜ」

「腹筋疲れのせいでしょうか。今、俺も行くと聞こえましたわ。付き添いならニナに頼んでありますよ?」

「妻と一緒の時間を過ごしたいんだよ。もちろん付き添わせてもらうからには俺が奢るぜ。エリクに頼み込んで時間作ってもらったからな」

 旦那様は嬉しそうに言いますが……

 もしかしてエリク様、それで機嫌が悪かったんじゃありません!? 私、お前のせいで仕事が増えたとか思われていたんじゃ……

「エリク様、大丈夫なんでしょうか……」

「土産にケーキでも買って帰れば問題ねーよ。ただ、俺は菓子の類いはさっぱりでな。一緒に選んでくれないか?」

 優秀な側近のおかげでお嫁さんとの時間が出来て良かったねと、得意気に言うエリク様の姿が目に浮かんだ。

「それは構いませんけど……。旦那様、あまりエリク様に無理をさせてはいけませんからね?」

 私がまた怒られてしまうので。そう思って指摘すると、深々とため息をつかれた。

「あのな。俺はお前に振り向いてもらいたくて必死なんだよ。アピールする時間、いくらあっても足りないだろーが」

 ……っ、エリク様ごめんなさいっ!
 これ、なんて答えるのが正解なんですか!?
 ありがとうございます!? 私にはそんな高等技術はありませんからっ!

「あ、明日は……美味しい物、たくさん食べましょうね!」

 結局食い気ばかりの自分が恥ずかしくなることもたまにはある。そんな私に向かって「いいぜ。何が食べたい?」と言ってくれる旦那様はとても優しい人だ。私は今度こそイカの串焼きが食べたいとリクエストしておいた。
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